今回は「緑内障界のレジェンド」と呼んで否定する眼科医はいない、桑山先生・狩野先生がいらっしゃる、大阪市の「福島アイクリニック」へ、多彩な緑内障手術テクニックと診察のテクニックを盗みに行ってきました。今年は私たちの大事な学習機会である学会が開催中止になったりしていますので、自分で機会を作って勉強しないと成長が止まってしまうと思い、必死です。
お二人は私にとって同門の大先輩にあたる先生方でして、桑山先生に至っては私が研修医だった頃からレジェンドの呼び声高い名医でいらっしゃいました。本来ならば気軽に教えを乞うて良いはずもないお二人なんですが、両先生ともね、お人柄が素晴らしいんです。
タイミング良く最新の緑内障インプラントを使用した手術などもあり、食い入るように見ていたところ、余程私の鼻息が荒かったのか、「そんなに技術を盗みたいなら、もっと近くで盗め」と、桑山先生からご提案頂きまして一緒に手術させてもらえることに。(写真1)
どんな手術においても手術時間は短いに越したことはありません。しかしそこにこだわって雑な手術をしたのでは意味がありません。レジェンドの域に達しておられる先生方というのは一挙手一投足に正確性を追求して洗練させる結果、手術時間が勝手に短くなるんです。結局6件の手術をお手伝いさせていただきましたが、私の質問にきっちり答えながらにもかかわらず、あっと言う間に全ての手術が終わってしまいました。
私も緑内障術者の端くれですので少しカッコつけて申し上げますが、手術が終わった瞬間に何となく術後経過のイメージが湧く感覚があります。特に線維柱帯切除術と言う術式などでは、術後成績が格段に変わってくるので私にとってこの感覚はかなり重要です。桑山先生の手術は、その良いイメージを得るまでの時間が非常に短い、想像を絶する鍛錬を積まれたのだと思います。
また「緑内障や糖尿病網膜症など慢性疾患は、末期になるまで症状がない」ので、患者様が持続的に通院しよう、とモチベーションを高めるのが難しい、と普段から感じている私は、図々しくも診察のテクニックを盗もうと、次の日も訪問させていただいて、診察見学もさせていただきました。そこで感じたことは至ってシンプル、手術と同じで診察においても一つ一つ必要なことを丁寧に患者様に伝えていく、ということでした。
医者なら当たり前じゃないか、と言われそうですが、医学的知識のない患者様全員に毎日、そして何十年も手をかけ続けていく、そして死ぬまで失明させない、という至高の目標を患者様と共有するためにはかなりの精神力を必要とします。
桑山先生はもうそろそろ70歳に手が届く年齢になっておられます。今も最前線で患者様と向き合われる熱意はどこから、と質問したところ「ここに来る患者様にとって俺が最後の砦、俺が諦めたらもうダメ、っていう患者様ばかりなんや。しんどいからと言って手を抜く暇、ましてやこの仕事を辞める暇なんか無い」…と、時に笑いあいながら、時に厳しく患者様と真剣に向き合っておられました。
そうか、立場は違えど私の取り組み方は間違ってはいないんだ、と自信を付けさせてもらえた一方で、これを続けないといけないのか、と改めて気が引き締まった10月の終わりでありました。
今回、色々お世話してくださった副院長の狩野先生も(写真2)、人柄・技術両面から緑内障界で尊敬を集める大先生(達人)で、お忙しいにもかかわらず私が沖縄行きの飛行機に乗るギリギリまで、これからの緑内障治療について、また私が日常悩んでいる患者様の治療法について相談に乗ってくださいました。何という充実感、強行軍での見学ツアーでしたが、本当に勉強になりました。ありがとうございました。
最後にもう一つ嬉しかったことが。私が以前指導したことのある当時実習生だった子が、この名門「福島アイクリニック」で立派に勤務していました(写真3)。何と7年ぶり偶然の再会、色んな意味で良いツアーでした。
三愛眼科院長
樫本大作