「血圧、上が204、下が112、脈拍は1分間に91回」・・・皆様、お久しぶりです。およそ1ヶ月半ぶりのコラム更新です。すごい血圧ですよね、これは昨年11月に初めて三愛眼科を受診された患者様の血圧です。
(眼科なのになぜ血圧を測ったのか?)ですって?ひとまず(写真1)をご覧ください。
(写真1)
これは眼球の中、網膜という場所の写真です。ど真ん中にど真っ赤な塊がありますよね。これは『血腫』、要するに血の塊です。しかも血腫がある場所は『黄斑部』といって、網膜の中でも視力を出すのに最も重要な部分なんですね。そこを血の塊に占拠されているわけですから、初めてお会いした時点でほとんど失明状態、視力は『20cm指数弁』でした。(指数弁?と思った読者の方は併せて
シリーズ『危うく失明、危機一髪』エピソード2も読んであげてくださいませ。)
序盤から専門用語が多くてごめんなさいね、一回深呼吸しましょう。飲み物も飲んで良いですよ。
この『血腫』を『黄斑部』に見つけてしまった時、私たち眼科医は(少なくとも私は)数秒以上めまいがします。理由は高い確率で完治させることができないからです。『血腫』の原因にもよるのですが、原因が何であったとしても、『黄斑部』に穴が開いていたり、血液自体が網膜にダメージを与えていたりすることが多く、手術して『血腫』を取り除くことができても、視力が回復しないのです。
(写真2)
(写真3)
今回の患者様は、(写真2)の*印部分に『網膜動脈瘤』があり、動脈瘤破裂が血腫の原因であることは見慣れている眼科医ならすぐ分かるのですが、網膜断層写真(写真3)を撮影してもやはり血腫が邪魔で黄斑部の様子は暗闇の中・・・ですが、とにかく血腫を取らないとこのまま失明してしまう、とご納得頂いて血腫除去手術に踏み切ることとなりました。
で、事前検査で血圧を測ったところ、冒頭にある、いつ脳梗塞を起こしてもおかしくないような高血圧があることが分かった訳です。
とにかく内服薬と点滴で血圧を下げて、緊急手術を行いました。不幸中の幸いにして血腫は黄斑部網膜の上に乗っかっているだけのものがほとんどで網膜に穴を開けるなどイタズラせず、ダメージを与えそうな網膜下に溜まった血腫はわずかで、これについては目の中に特殊なガスを入れてガスの圧力で血腫を黄斑部から移動させる、という治療方法を選択しました。
(写真4)
手術して1週間後の(写真4)をお見せします。⭐︎印が目の中に入れた特殊なガスで、×印が網膜動脈瘤をレーザーで処置した痕、(写真2)*印にあった血腫は無くなって、正に黄色く写る黄斑部が顔を出しました。視力も(1.2)ありますよ。これはですね、ほんっとにラッキーなパターンです。
今回の患者様は、自分の血圧が高いことをよくご存知だったのですが、お聞きしていると、現代社会が抱える問題点が浮き彫りになってきました。
#以前は高血圧でお薬飲んでいた
#
母親の介護で忙しく、10年以上は通院できていなかった
これは今回の患者様に限らず、日常診療をしていて本当に聞くことの多いフレーズです。老老介護時代では、要介護者を支える介護者も何かしら持病があるに決まっています。特に高血圧などの慢性疾患はそれ自体無症状でも、脳梗塞、心筋梗塞など取り返しのつかない合併症が待っています。
今は息子さんが内科も眼科も付き添って通院させてくれていますので、一安心。今回は網膜動脈瘤が破裂して教えてくれたおかげで、逆に一命を取り留めたのかも知れません。三愛眼科はこれからも口酸っぱく、
#人生100年時代の『見える』を守るために
#緑内障や糖尿病網膜症など
#症状が出ないために末期まで見逃されがちな慢性疾患の
#早期発見・早期治療
が浸透するように発信し続けます。「症状もないのに長い時間待たされてお薬もらうだけ」なんて言わないでください、それがどれだけ大事なことか・・・
三愛眼科院長
樫本大作