シリーズ『多焦点眼内レンズを使用してはいけない人って?』 エピソード2
今年も気持ちが落ち着かない滑り出しになりましたね。『明けない夜はない』と信じて、身近にいる家族や友人そして自分をまずは大事にして、夜明けを待ちましょう。
昨年の私は、というと気持ちは落ち着かないが少し時間的余裕があるのを良いことに、院内のリフォームやスタッフ教育、電子カルテシステムの開発など、皆さんに質の高い医療を提供するために時間をかけて取り組みたいと思っていたことを進めることができました。そんなことばかりやっていて、医師としての情報発信が遅れちゃって…コラムが疎かになり…という苦しい言い訳から今年のコラムもスタートします!
さて(何が「さて…」やねん!)、今年の
『新年の挨拶』でもお話ししましたが、三愛眼科に昨年から仲嶺盛(サカリ)先生が副院長として仲間になり(ホームページ医師紹介のアップデートはもう少しお待ちください)、三愛眼科が得意としている
#白内障
#緑内障
#網膜の病気(糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症など)
#まぶたの病気(眼瞼下垂など)
の治療を、より皆さんにスムーズに、安心して受けていただける体制になりました。認知度の高い白内障手術ならまだしも、あまりイメージの湧かない特殊な手術については、私たちも患者様も共に落ち着いて、不安を受け止めながら話し合える環境が理想です。仲嶺副院長のおかげで診療時間の多くを医師二人体制にすることができ、ゆったりと診療に臨めているので大変ありがたいです。
認知度の高い白内障手術ならまだしも、と申し上げましたが、『
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術』についてはそうもいかず、多焦点眼内レンズを使っても満足する結果が得られない可能性がある患者様には腰を据えた説明がやはり必要です。どのような患者様かと言いますと、
#弱視(生まれつきどうしたって視力が1.0出ない人)
#他に目の病気がある(緑内障や糖尿病網膜症など)
#片方の目は手術後で、単焦点レンズが入っている
#70歳以上
#高次収差(特殊な乱視)が強い人
このような患者様が
『多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術』をご希望される場合には、しっかりと時間をかけて説明しなければいけません。今回は前回のシリーズ
『多焦点眼内レンズを使用してはいけない人って?』エピソード1に引き続き第2弾のお話です。
(相変わらずこの先生前置きが長いなぁ、嫌われるよ?)すみません…グスン。
さて(出た、「さて」!)、今回は左眼を白内障と網膜の病気で手術しておられ、既に単焦点レンズが入っているC様のお話です。C様は数年前左眼に、黄斑円孔という病気を患われ、他院で手術を受けられました。黄斑円孔という病気は文字通り黄斑(網膜の中でも視力を出すのに最も大事な部分)に穴が空いてしまい、物が歪んで見えたり、メガネをかけてもコンタクトを付けても視力が0.1程度しか出ないくらい下がってしまう病気です。素晴らしい回復力だったのでしょう、当院に来られた時にはメガネをかけさえすれば視力1.2見えるまでになっておられました…そう、メガネをかけさえすれば…メガネ…そうなんです、そうなんです!
私たち眼科医の定石として、C様のように片眼だけ白内障手術を受けられる場合には、反対側の目と同じくらいの距離に焦点を合わせるように眼内レンズの度数を決めます。そうしないと不同視と言って術後に不快感が生じる可能性が高いのです。C様は元々軽い近眼の持ち主でいらっしゃったので、他院でも右眼の近眼に合わせて眼内レンズを選ばれたのでしょう。なので当院にもモチロン近眼用のメガネをかけて来られました。
この定石、白内障手術を受けられる患者様によく説明するんですけど、白内障手術=よく見えてメガネ要らず=快適になる手術、と一般的に認識されてますから、一生懸命話せば話すほど混乱する患者様もいらっしゃって、スッキリ納得が得られる上手い説明が思いついていない一つなんですよね。
C様も右眼の手術を受けたにも関わらずメガネ生活であることがご不満で、当院に左眼の
『多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術』を求めてこられた、という訳なのです。
ですが、
#片方の目は手術後で、単焦点レンズが入っている
#左眼は近眼を残すように手術されている
ので、やはり堅く保守的に考えるならば、
#右眼も左眼の近眼に合わせて単焦点レンズを使用する
が定石です。私は自信を持って一生懸命説明させていただきました。が、数年間恋焦がれてきたメガネ無し生活への熱い想いに押し負けて、結局多焦点眼内レンズを使用することになってしまいました。
(また押し負けたんですか⁉︎ ダメでしょ⁉︎)はい、すみません。ですが一応C様のケースに関しては勝算がありました。C様の利き目はこれから手術する右眼(利き腕が右、みたいな話です)、さらに今までの経験では、片眼に単焦点眼内レンズが既に入っている患者様に多焦点眼内レンズを用いても、違和感や不快感をおっしゃる方は幸いいらっしゃらなかったんです。そういった経験もC様と共有し、ご理解を得た上で、せめてどこかは左眼と焦点が合う距離は欲しいなぁ、ということで三焦点タイプを選択しました。(あ、この選択はあくまで私の主観です。医学的根拠はございません)
現在の視力はこんな感じです。
|
右眼 |
左眼 |
30cm離れたところを見る視力 |
1.0 |
0.4 |
40cm |
1.2 |
0.7 |
50cm |
1.0 |
0.9 |
1m |
1.0 |
0.9 |
5m |
1.2 |
0.6 |
そして皆さん、聞いてください。C様は不快感なく快適だそうです!だけど、すぐに言われましたよ、『左眼も多焦点レンズに入れ換えられないか』と…もう何年も経ってますからねぇ、希望に添えたらとは思いますが…できないんですよねぇ。完璧な幸せの形って難しいですよね。C様には、両眼で見る時に違和感がなければ100点満点ですよ、とご納得いただきました。
『100年見える溌剌とした人生を!』
三愛眼科の理念です。C様の場合、左眼は大きな病気をされたにも関わらず素晴らしい術後経過を辿っておられ、さらに右眼に使用した多焦点眼内レンズとの相性もバッチリでメガネ無しの生活を獲得されましたので、是非とも溌剌とお過ごしいただきたい…だけど、100%の満足では無いようなんですよね。私たち専門家から見れば2大会連続金メダルものの快挙なんですけどね。
それでも診察に来られる度に、段々笑顔が爽やかになってきている気はします。頑張れC様!私も根気良く元気付けたいと思います!皆さんも応援よろしくお願いします!
三愛眼科院長
樫本大作